妊娠中の鉄分不足。リスクや効果的な貧血予防法は?

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妊娠中の鉄分不足。リスクや効果的な貧血予防法は?

妊娠中は多くの鉄分が必要になり、貧血を起こしやすくなります。バランスの良い食生活を送ることが大事です。妊娠中は赤ちゃんのことや自分の体のことを含め心配事が多くなるので少しでも予防していきたいですよね。 この記事では鉄分不足のリスクや貧血の予防方法など紹介いたします。

なぜ妊娠すると鉄分不足になりやすいの?

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妊娠すると鉄分が必要と聞いたことはありませんか。体内での鉄分の役割や、妊娠すると鉄分不足になりやすい理由について解説します。

そもそも鉄分はなぜ必要なの?

鉄分は成人の体内に約3~5g存在する必須ミネラルのひとつです。70%は赤血球の中のヘモグロビンや筋肉の中のミオグロビンに存在しており、残りの30%は肝臓や筋肉や骨髄などに貯蔵鉄としてストックされています。 鉄分の大きな役割は、血液中でヘモグロビンを作ります。ヘモグロビンは鉄分を含む色素とたんぱく質でできており、酸素とくっついて全身に酸素を運んでいきます。 鉄分が不足してしまうとヘモグロビンが作られる量が減ってしまい全身へ酸素を運ぶことができなくなります。よって、酸欠の状態になり「鉄欠乏性貧血」となります。 また、鉄分が不足したときには、まずストックされていた貯蔵鉄が利用され、そのあとに血液中のヘモグロビンの中の鉄分が利用されます。したがって血液のヘモグロビンが不足し、酸欠の状態になってしまったときにはすでにストックしていた貯蔵鉄もない状態で体全体の鉄分が減少している状態といえるのです。

妊娠すると血液量が増えて薄い血液になる

妊娠すると妊婦さんの体内だけでなく、胎児の成長のために子宮にも血液を送る必要があります。そのため、妊娠中期になると血液の量が非妊娠時よりも11.5Lほど多くなります。血液はヘモグロビンが含まれている赤血球と水分にあたる血漿に分かれており、血漿は1.31.5倍に増えるのに対し、赤血球は作るのが追い付かず1.2倍量しか増えません。つまり薄い血液になり、「水血症」という状態を招きます。この現象は妊娠することで生理的な変化なので心配することはありません。薄くなった血液は子宮に循環しやすくなり、胎児に栄養を届けやすくなるというメリットもあります。 ですが、妊婦さんにとっては多くの赤血球が必要となるため鉄分が不足しやすく貧血を招いてしまうのです。

優先的に胎児に鉄分が補給される

妊娠後期になると、胎児の成長スピードは急速になり多くの栄養が必要になります。薄まった血液から優先的に胎児に鉄分を供給されることにより妊婦さんの体内では鉄分が不足してしまうのです。 また、出産時の大量の出血や産後の回復も考えると鉄分は積極的に補給する必要があります。

貧血になったことがない人でも鉄分不足には注意

以上のことから、非妊娠時に貧血になったことがない人でも胎児が大きくなっていく上での生理現象によって貧血になりやすくなります。 貧血になると、妊婦さんがふらふらしてしまうなどの貧血症状以外にも胎児にもリスクがあるので妊娠を希望する段階から鉄分を意識してとるように気を付けましょう。

妊婦さんの鉄分不足のリスクは?

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妊娠すると鉄分不足になりやすいと言われていますが、どのようなリスクがあるのか、また鉄剤を処方されたときのリスクも解説します。

鉄分不足による貧血の症状

症状として以下のものがあげられます。 妊婦:めまい、立ち眩み、倦怠感、易疲労、微熱、肩こり、頭痛、気力の低下、肌荒れ、爪の変形、むくみ、集中力の低下、食欲不振、皮膚・眼瞼結膜・爪の蒼白・口角炎・舌炎・心拍数の増加・息切れ・産後の回復が遅れる、母乳が出にくくなる ※これらの症状は酸素を運ぶヘモグロビンの量が少なくなることによる酸素不足による症状と、それを補うためにおこる症状です。 胎児:発育遅延による低出生体重児、早産 妊婦さんの体だけでなく、胎児の発育が遅延したり、早産になってしまったりというリスクを考えると積極的に鉄分をとって貧血を予防したいですよね。

鉄分不足により鉄剤を処方されることも

妊婦健診の血液検査にてヘモグロビンの濃度が10.5g/dl以下だと、治療として鉄剤を処方されます。 鉄剤を飲めばすぐに鉄分不足が解消されると思われがちですが、蓄えられている鉄を補い、しっかりと血液の中にヘモグロビンが補われるようになるまでには12ヶ月もかかります。もちろん血液検査の数値の改善にも12ヶ月かかります。 また、鉄剤を飲むことによって吐き気、嘔吐、胸焼け、腹痛、下痢、便秘、便の黒色化などの副作用が出ることもあるので、さらにトラブルが増えてしまう可能性もあります。

鉄分の必要量の目安

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厚生労働省からでている「鉄の食事摂取基準」では妊婦の鉄の推奨量として以下があげられています。 妊娠初期:8.59.0mg 妊娠中期・後期:21.021.5mg 授乳婦:8.5~9.0mg

妊娠すると生理で出血することがなくなるため、妊娠初期の必要量は多くありません。 妊娠中期・後期になると血液量が増えることや胎児への鉄分供給のため、急激に増加します。 妊娠初期はつわりで食べられない妊婦さんもいると思いますが、妊娠前から継続して鉄分を摂るよう心掛けましょう。

出産後にも同じく鉄分は必要。妊娠中から貧血だったり、出産の出血量が多かったりすると産後も貧血になりやすいです。 また、母乳も血液でできており、血液量を増やす必要があるため、多くの鉄分が必要になります。

バランスの良い食生活で鉄分を補い貧血を予防しよう

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以上であるように、妊婦さんにとっても、胎児にとっても必要な鉄分ですが基本は毎日の食事からとることが重要です。鉄分不足にならないような予防法を紹介します。

【貧血予防】ダイエットは厳禁!1日3食しっかり食べよう

妊娠中は体重管理が大変かと思いますが、近年ではダイエット志向が高まり、妊娠中でも体重を増やしたくないという妊婦さんが増えているようです。その結果、2500g未満の低出生体重児の割合が増えてしまい、子どもの成長において健康リスクが高まる恐れがあると言われています。

・妊娠中の体重増加の目安 (妊娠前) BMI18.5以下:1215kg BMI18.525.0:1013kg BMI25.030.0:7~10kg BMI30.0以上:個別対応で上限5kgが目安

妊娠中の体重増加の目安があるように、増えすぎてもいけませんが増えなすぎるというのも胎児の発育にとっては良いことではありません。

妊娠中はダイエットや朝食抜きなどしないよう1日3食バランスよくしっかり食べましょう。

【貧血予防】ヘム鉄と非ヘム鉄をまんべんなく食べよう

食品中に含まれる鉄分は、肉や魚などの動物性食品の中に含まれている「ヘム鉄」と野菜や大豆類などの植物性食品の中に含まれている「非ヘム鉄」の2種類に分かれています。 それぞれどのような鉄なのか解説します。

・ヘム鉄 動物性食品の中に含まれており、吸収率が10~30%と高め。たんぱく質に覆われているため、他の食品の成分によって吸収率が妨げられることが少ないとされています。

・非ヘム鉄 植物性食品の中に含まれており、吸収率は5%前後と低いが食べ方によって吸収率を上げることができる。反対に、他の食品と一緒に食べると吸収率を妨げられてしまうこともあるので、食事の工夫が必要。

動物性食品、植物性食品をバランスよくとり、幅広い食品から鉄を補給することが大事です。

鉄分が豊富な食べ物の紹介(100gあたりの鉄分量)

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鉄分が豊富な食べ物①肉類

・豚レバー(生)13.0mg ・鶏レバー(生)9.0mg ・鴨肉(生)4.3mg ・牛ハラミ(焼き)4.1mg ・牛レバー(生)4.0mg ※希少部位は除く (100gあたりの鉄分量)

肉類はヘム鉄が豊富です。スーパーで日常的に買えるような肉は、牛肉0.83.5mg、豚肉0.41.3mg、鶏肉0.3~2.1mgと部位により差があります。

レバーは鉄分が豊富ですが、ビタミンAもとても多く含まれています。妊娠初期のビタミンAの過剰摂取は胎児の身体や機能に先天的な異常を引き起こす恐れがあると言われているため注意してください。

鉄分が豊富な食べ物②魚介類

・あさり缶詰(水煮缶):30.0mg ・あゆ(生)5.5mg ・さんま缶詰(かば焼き)2.9mg ・めざし(生)2.6mg ・ほたて(生)2.2mg ・まいわし(生)2.1mg ・かつお(生)1.9mg ・まぐろ赤身(生)1.8mg (100gあたりの鉄分量) 魚はヘム鉄を、貝はヘム鉄と非ヘム鉄のどちらも含んでいます。魚介類は缶詰製品に鉄分が多く含まれているものも多いので調理しやすいです。味がつけられているタイプの缶詰は濃いめの味も多いので塩分の摂りすぎには気を付けましょう。 そのほか、かたくちイワシや干し海老にも含まれているのでご飯にかけて食べるのもおすすめです。

鉄分が豊富な食べ物③卵

・生卵 0.9㎎ ・ゆで卵 0.9㎎ ・目玉焼き 1.1㎎ ・炒り卵 1.3㎎ (卵一個60gあたりの鉄分量) 卵に含まれる鉄分は非ヘム鉄です。調理法によって鉄分量が若干異なります。一日1~2個食べる習慣をつけましょう。

鉄分が豊富な食べ物④野菜

・小松菜(生)2.8mg ・サラダ菜(生)2.4mg ・ほうれん草(生)2.0mg ・水菜(生)2.1mg ・そらまめ(ゆで)2.1mg ・枝豆(ゆで)2.5mg (100gあたりの鉄分量)

野菜に含まれる鉄分は非ヘム鉄です。鉄分といえばほうれん草というイメージもありますが、実は小松菜の方が多く含まれています。枝豆やそら豆も鉄分を含んでいます。枝豆は冷凍タイプを活用しても時短になり鉄分も摂れるのでおすすめです。

① 大豆類(非ヘム鉄) ・きなこ(乾燥粉末)8.0mg ・おから(乾燥)4.9mg ・納豆 3.3mg ・大豆(ゆで)2.2mg ・木綿豆腐 1.5mg ・絹ごし豆腐 1.2mg (100gあたりの鉄分量)

大豆類に含まれる鉄分は非ヘム鉄です。納豆も鉄分が含まれているので毎日1パックを目標に続けられると良いでしょう。 きなこも鉄分が豊富なのでヨーグルトにかけたり、パンにかけたりするなど、少しずつ摂れると嬉しいですね。

② 藻類(非ヘム鉄) ・ひじき(鉄釜・乾燥)58.0mg ・ひじき(ステンレス釜・乾燥)6.2mg (100gあたりの鉄分量)

藻類に含まれる鉄分は非ヘム鉄です。乾燥ひじきは2015年頃までは鉄分量が豊富な食品として推奨されていました。 ひじきそのものには多くの鉄分は入っていません。海でとった生のひじき煮るときに、昔は鉄製の釜を使っていたため鉄釜の鉄分がひじきに入り込み、鉄分豊富として言われていたのです。現在はステンレス製の釜を使われることが多く鉄分が減ってしまったのです。 昔ならではの鉄製釜で作られているひじきを見つけたときには鉄分豊富なので是非使ってみてくださいね。

※データは食品成分データベース (mext.go.jp)より

鉄分を効率よくとろう!食べ合わせに注意!

食品の中に含まれている鉄分にはヘム鉄と非ヘム鉄があり、非ヘム鉄は吸収率が低めですが食べ方によって吸収率をアップすることができます。

・吸収率を上げてくれる栄養素 「ビタミンC」は非ヘム鉄と一緒にとることで吸収率を高めてくれます。 野菜ではパプリカ、キャベツ、ブロッコリーなどに含まれています。ビタミンCは熱に弱く、茹でることによって流されやすいため、スープに入れて汁ごと飲んだり、電子レンジを活用したりするのもおすすめです。 オレンジなどの柑橘類、キウイ、イチゴなどの果物は、ビタミンCを多く含んでいるので、デザートとして食べるのも良いですね。

そのほか、牛乳のたんぱく質である「カゼイン」が体内で分解されるとできる「カゼインホスホペプチド」という成分も鉄分の吸収率を高めてくれるので牛乳を飲んだり、牛乳を使ってスープを作って煮込んだりするのも良いでしょう。

・吸収を阻害する栄養素に注意 コーヒーや紅茶、お茶に含まれている「タンニン」は、植物性食品に含まれている非ヘム鉄の吸収を阻害すると言われています。 食事のときには控えて、水や麦茶を飲むのが無難です。

玄米やオートミールに多く含まれている「フィチン酸」も鉄分の吸収を阻害すると言われています。玄米やオートミールは食物繊維も豊富で体に良い食品ですが、鉄分との関係でいうと白米を食べる方が吸収率は良くなります。

まとめ

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妊娠中には鉄分不足になりやすいと言われています。血液量が増え、胎児へ栄養が必要となることから普段から貧血になったことがない人でも貧血になりやすいです。 貧血になってしまうと、妊婦さんだけでなく、胎児にもリスクがあることや、鉄剤の副作用もあることから、貧血になる前に日常の食生活を整えてバランスよく食事をとることが重要です。 自分の体のためにも、胎児のためにも一日3食、バランスよく食べて貧血対策への意識をあげていきましょう。

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