妊娠中、女性の身体の中では赤ちゃんがお腹の中で成長するための環境として、胎盤や羊水ができるようになります。普段は身体の中に存在しない赤ちゃん、胎盤、羊水によって妊娠中の体重は変化するのです。また、妊娠中の女性は本能的にお腹の中の赤ちゃんを守ろうとして身体に脂肪がつきやすくもなります。もちろん赤ちゃんや羊水によって増える分、体重増加はあるのですが、妊娠中の体重管理は妊娠中や産後の合併症のリスクを減らすためにもとても重要だといわれています。
今回は妊娠中の体重の変化について羊水や胎盤、赤ちゃんの重さについても含めて解説していきます。
妊娠中はなぜ体重が変化するの?
妊娠中の体重管理は大切だけど難しい、という話はよく聞くと思います。では、そもそもなぜ妊娠中の女性は体重が変化するのでしょうか。妊娠中の女性の体重が変化する理由について紹介していきます。
羊水・胎盤がお腹の中にできる
みなさんもご存知の通り、妊娠すると女性の子宮の中には赤ちゃんを育てる環境、羊水や胎盤ができあがります。 1)羊水 羊水は赤ちゃんを外の衝撃から守り、赤ちゃんの空間を確保する役割があります。また羊水は赤ちゃんの呼吸運動の練習にも役立っています。 羊水の量は妊娠中、赤ちゃんの発育とともに変化していきます。羊水は妊娠10週ころでは25ml程度ですが、その後徐々に増加し妊娠20週では350ml程度となり、妊娠30週ころには800mlとピークを迎えます。その後は徐々に減少していきます。妊娠10ヶ月の重さにするとだいたい0.5kgです。
2 )胎盤 胎盤は赤ちゃんの成長にとって欠かせないものです。妊娠中は胎盤を通してお母さんから赤ちゃんに必要な栄養や酸素を渡したり、赤ちゃんが不要となったものや二酸化炭素をお母さんに渡したりしています。胎盤も妊娠中、羊水と同様に赤ちゃんの成長とともに大きくなっていきます。妊娠10ヶ月の胎盤の重さはだいたい0.5kgです。
赤ちゃんが成長する
妊娠中に赤ちゃんはお腹の中で成長していきます。妊娠3ヶ月ころには胎児は人間らしい形になってきて少しずつ大きくなってきます。 妊娠3ヶ月ころの体重10〜20gほどで、いちご1つ分くらいです。 妊娠4ヶ月になると体重は100gくらいで、みかん1つ分ほど。 妊娠5ヶ月になると250gくらいになります。 妊娠6ヶ月になると500g程度となり、そこからの体重の増えは大きくなっていきます。 妊娠7ヶ月になると800〜1000g程度となります。 妊娠8ヶ月になると1500g程度になります、妊娠8ヶ月をこえた頃からお母さんたちはよく「息をしているだけでも体重が増える。」といいます。この時期には羊水も最大量になり、胎盤も赤ちゃんの体重増加とともに大きくなり重さも重くなっていきます。さらに赤ちゃんの体重の増え幅も大きくなるのです。 妊娠9ヶ月には2200〜2500g程度となります。 妊娠10ヶ月には3000g程度となるのです。
妊娠・出産に耐えられるように身体を整える
妊娠中の女性はホルモンの変化によって皮下脂肪がつきやすくなります。これは本能的に赤ちゃんを守るためだといわれています。皮下脂肪をつけることで赤ちゃんのいるお腹を衝撃から守ろうとしているのですね。また、妊娠中や出産にはものすごいエネルギーが必要になります。そのため出産に備えて身体の中にエネルギーを蓄えようとするため脂肪がつきやすいともいわれています。
妊娠中は皮下脂肪だけでなく、出産の出血に備えて女性の体は循環する血液量を増やします。出産時にはどれくらいの出血が出るのかというと、200〜500mlくらいが多いです。中には1000ml以上出る方もいるのです。妊娠中ではない方がそれだけ出血すると命に関わりますよね。妊婦さんはその出血に耐えられるように妊娠中に身体を整えているのです。そのため、妊娠中の体重増加は血液量が増えることも一つの理由でもあります。
つわりやマイナートラブルによるもの
妊娠中はつわりなど食欲や消化器系の不調に関わるマイナートラブルが多くあります。妊娠初期にはつわりに悩まされ食事が思うように進まないが、つわりがなくなった途端食べ物がとても美味しく感じ、ついつい食べすぎてしまう・・・ということはよくあることです。つわりによって体重が減少する方もいます。妊娠中には体重の増減が起こりやすい時期だということを理解しておくことも大切です。
妊娠中の体重管理はなぜ大切なの?
病院や助産院でよく体重に関するお話を聞くことがあると思います、中には、体重の管理に気をつけるよう指導された経験がある方もいると思います。では、なぜ妊娠中に体重を管理することが大切なのでしょうか。
妊娠中の合併症の予防
体重が過剰に増加すると妊娠に伴う合併症を引き起こすリスクが高まります。例えば代表的なものに、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病などがあります。妊娠高血圧症候群は妊娠中から出産後12週間以内に血圧の上昇や血圧上昇に伴う全身の症状が出ることをいいます。
妊娠高血圧症候群では血圧が高くなるだけでなく、腎臓や肝臓などの臓器に負担がかかり全身に症状が出たり、脳出血のリスクも高まります。また、妊娠中の女性の身体だけでなく、お腹の中の赤ちゃんにも影響するのです。臍の緒を通して赤ちゃんとお母さんは酸素や栄養のやり取りをしていますが、その臍の緒の血液の流れが悪くなり、赤ちゃんの成長がしにくくなったりするのです。
妊娠糖尿病では臍の緒を通してお母さんの血糖値が高い血液が赤ちゃんに流れるため、お腹の中で赤ちゃんが高血糖の状態になります。そのため赤ちゃんが週数に比べて大きく育ちすぎたり、羊水の量が過剰に増えたりします。赤ちゃんが生まれた後には今までお母さんの高血糖の血液をもらっていましたが、それがなくなるため赤ちゃんは低血糖の状態になりやすくなります。
体重の過剰な増加はこのような合併症を引き起こすリスクを高めてしまうのです。
出産に向けた体づくり
経膣分娩で生まれる時、赤ちゃんはお母さんの骨盤・膣など産道を通って生まれてきます。妊娠中に過剰に体重が増加すると、なんと産道が狭くなりやすいのです。皮下脂肪だけでなく身体の内側や膣にも脂肪がつきやすくなるのですね。産道が狭くなると赤ちゃんはもちろん通りにくくなりますので、出産が長時間になりやすくなります。また、膣も裂けやすくなります。
帝王切開での出産の場合、お腹をメスで切るのですが、皮下脂肪が多いと手術後に傷がくっつきにくかったり、傷が感染しやすくなったりします。
出産に向けた体作りのためにも体重管理は大切ですね。
妊娠中の理想の体重変化は?
妊娠中に体重が変化する理由、体重を管理する大切さについて紹介してきました。では、妊娠中の理想の体重変化はどのようなものなのか見ていきましょう。
目標体重は非妊娠時のBMIで決まる
妊娠中は体重が増加していくものですが、増加しすぎると色々とよくないことが起こります。そのため、体重増加の目安が決まっているのです。その体重増加の目安は非妊娠時のBMIによっておおよそ決まります。BMIとは[体重(kg)]÷[身長(m)の2乗]で算出される値のことで、肥満ややせの判定に用いられています。
妊娠中の体重増加の目安として、BMI18.5未満の方は9〜12kg、BMI18.5〜25.0の方は7〜12kg、BMI25.0以上の方は個別での相談となりますが増えたとして5〜7kgといわれています。あくまでも目安なので、お母さんの合併症や状態に応じて変化してきますので、医師や助産師と相談しましょう。
妊娠中に必要なカロリーとは
妊娠中には赤ちゃんの成長のために食事を多くとらなければいけないのでは?と考える方もいるかと思います。では、妊娠中の必要なカロリーはどれくらいなのでしょうか。
妊娠中に必要なカロリーは妊娠時期によって異なります。いつもの必要カロリーにプラスして妊娠初期は50kcal、妊娠中期は250kcal、妊娠後期は350kcalほどです。
赤ちゃんのために食べなければ!と意気込むほど付加するカロリーは多くはないのです。
妊娠週数に応じた体重増加の目安
妊娠中あまりにも細かく体重を管理することはストレスにもなりますし、難しいです。なので大まかに目安を知っておくとよいでしょう。赤ちゃんの体重の増え方を見てもわかるように、赤ちゃんは妊娠後期になると一気に体重が増えます。それに伴ってお母さんの体重も一気に増えやすくなるのです。赤ちゃんの体重増加を止めることは無理なことなので、妊娠後期に体重が増えるのは仕方のないことなのです。そのため、妊娠後期になると体重は増えてしまうものだということを念頭において、妊娠初期から中期にかけては体重増加をおさえておくことがおすすめです。目安としては、妊娠6ヶ月が終わるころまでで体重増加の目安の半分以下におさえておきたいですね。
まとめ
今回は妊娠中の体重の変化について、羊水や胎盤、赤ちゃんの重さの変化についても含めて紹介しました。妊娠中の羊水・胎盤・赤ちゃんによる体重変化だけでなく、妊娠中や出産に備えて様々な理由で体重が変化します。しかし、体重が増えすぎてしまうと妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病といったお母さんだけでなく赤ちゃんにも影響する合併症を引き起こすリスクが上がってしまうのです。そのため妊娠中には体重の管理が必要だと言われています。妊娠中の体重変化についての正しい知識を持って目標体重を知り、管理していくことが大切です。